吉五郎は職人の方へ向き直ると、源蔵も小声で話し出した。
「実は昨晩、高田の四家町《よつやまち》まで参りまして、その帰り途に目白坂の下まで参りますと、寺の生垣《いけがき》の前に男と女が立ち話をして居りましたが、わたくしの提灯の火を見ると、二人ともに慌てて寺のなかへ隠れてしまいました。夜目遠目《よめとおめ》で確かなことは申されませんが、男は火の番の藤助で、女はむすめのお冬のように思われたのでございます。お冬はともあれ、このあいだから行くえ知れずになっている藤助がこの辺にうろ付いていて、往来なかで娘と立ち話をしているのは何だか変だと思いましたが、その時はそれぎりにして帰ってまいりました。そこで、念のために今朝ほどお冬の家《うち》へ行ってみますと、お冬は留守でございました。もちろん、藤助のすがたも見えず、家はがら明きになって居りました」
「それは宵のことかえ」
「左様でございます。まだ五ツ(午後八時)にはならない頃でございました」
「それから、もう一つのことも話してしまいねえ」と、兼松は催促した。
「へえ」と、源蔵はやや当惑らしい顔色をみせたが、やがて思い切って又云い出した。
「わたくしもも
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