された。かれらは得物《えもの》を取って闘っているのでなく、空手《からて》の掴み合いであるらしかった。
夜ふけの寺の庭さきで、男と女が息を切って掴み合い、むしり合っている。それだけでも唯事ではない。留吉は雨戸の隙間《すきま》から覗いてみようと燥《あせ》ったが、何分にも戸締まりが厳重に出来ている上に、長い縁側の戸袋《とぶくろ》は遠いところにあるので、そこまで這って行って雨戸を繰り明けるのは容易ではなかった。よんどころなく雨戸の隙間に耳を押し付けて、一心に外の物音を聴き澄ましていると、その物音は吹き消されたように忽ち鎮まって、風の音のほかには何んにも聞こえなくなった。
留吉は不思議に思った。なんだか気味が悪いようにも感じた。今まで聞こえていた物音は自分の空耳《そらみみ》であったのか、あれほどの格闘《かくとう》が俄かにひっそりと鎮まる筈がない。一方が倒れたならば、尚更その物音がきこえる筈であるのに、何事も無しに忽ち鎮まってしまうのは可怪《おか》しい。しかも自分の耳にきこえたのは、風音でもなく、木の葉の摺れ合う音でもなく、たしかに人と人とが挑み合う音であった。
「変だぞ」
暫く縁側に這い屈
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