行くと、うまく瞞《だま》してお大を出してやる。闇祭りの日には江戸や近在の参詣人が大勢集まって来るから、却っていいと云うので、五月五日にお大をこっそり落としてやりました。
お大は男にだまされて府中へ行き、友蔵の家で待ち合わせていたが、幾次郎は来ない。その翌日になっても姿を見せない。それも道理で、幾次郎は最初から一緒に駈け落ちをする気はない。女のふところには二十両の金を持たせてあるから、それを巻きあげた上でどうとも勝手に始末してくれと、友蔵に頼んである。実にひどい奴もあるものです。
それを知らずに持っているお大にむかって、友蔵はいよいよ本性をあらわしましたが、自分に駈け落ちの弱味があるから、お大はじたばたすることも出来ない。ふところの二十両は早速にまきあげられて、その上に友蔵の慰み物です。逃げ出されては面倒だと思って、友蔵はお大を細引で縛って、用のない時は戸棚へ抛り込んで置く。お大は三十四、五ですが、容貌《きりょう》もまんざらで無いので、さんざん玩具《おもちゃ》にした上で何処かの田舎茶屋へでも売り飛ばそうという友蔵の下心《したごころ》。お大はひどい目に逢いながらも、今に幾次郎が来るもの
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