る。大願成就と幾次郎は手を拍《う》って喜んだのです」
「それじゃあ二人は幾次郎のところへも化けて出ていいわけですね」
「友蔵も悪いが、幾次郎は一倍悪い。まったく幾次郎の方へ幽霊が出そうなものですが、二人ともに幾次郎の巧みを知らなかったのでしょう。そこで内からは女房のお大が糸を引いて、清七の後釜《あとがま》に幾次郎を据える段取りになったのですが、主人も直ぐには承知しない。ふだんから大目に見ているものの、幾次郎が道楽者ということは主人もよく知っているので、それを相続人にして清七の二の舞をやられては困る。その懸念があるので主人も渋っている。
そうして半年ばかり過ごすうちに、お大は此のごろ幾次郎にむかって、二人が仲を主人に薄々感付かれたらしいから、いっそ連れて逃げてくれと云い出しました。そんな筈は無いから、まあ我慢しろと幾次郎がなだめても、お大は肯《き》かない。しかし幾次郎にしてみると、主人の女房と不義を働いているのも、和泉屋の養子に直って、その身代を手に入れたいからで、もう一と息というところまで漕《こ》ぎ付けながら、その大望を水の泡にして、年上の女と駈け落ちなどをする気はありません。しかし
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