、だんだんに清七を堕落させ、それを落ち度にして和泉屋から放逐するという魂胆でしたが、その薬が利き過ぎて、相方のお国は清七に初会《しょかい》惚れ、清七の方でも夢中になる。さあ占めたと、幾次郎とお大は肚《はら》をあわせて主人の久兵衛にいろいろの讒言をする。久兵衛も馬鹿な男ではないのですが、自然それに巻き込まれて、清七の信用は次第に薄くなる。それでも清七の迷いは醒めないで、二十五両の金を持ち出してお国を身請けという事になったのです。勿論、幾次郎も蔭へ廻ってそそのかしたに相違ありません。
ところが、お国には友蔵という悪い親父が付いているので、いい鴨がかかったとばかりで、二十五両を横取り、喧嘩仕掛けで清七を逐い出してしまった。根がおとなしい人間ですから、清七はくやしさが胸いっぱい、もう一つには近ごろ養父や養母の機嫌を損じて、まかり間違えば離縁になるかも知れないと云うようなことも薄々感じている。二十五両の金とても帳合いをごまかした金だから、それが露顕すればいよいよ自分の身があやうい。お国もそれに同情して、又二つには邪慳《じゃけん》な親父への面当てもあったのでしょう、二人はとうとう心中という事にな
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