こいつが曲者でした。前にも申す通り、おやじの勇蔵が主人の罪をかぶって牢死した。その忠義に免じて、和泉屋でも眼をかけて使っていた。和泉屋には子がないので、行くゆくは養子にしてくれるかと内々楽しみにしていると、主人の親類から清七という養子が来てしまったので、幾次郎は的《あて》がはずれた。それが、そもそもの始まりで、自棄《やけ》も手伝って道楽をする。それでも主人が大目《おおめ》に見ているので、だんだんに増長して和泉屋乗っ取りを企てる事になりました。その場合、あなたならどうします」
「さあ、まず養子の清七を遠ざけるんですね」
「だれの考えも同じことで、まあそうするのほかはありません。和泉屋の女房は後妻で、亭主の久兵衛とは年がよほど違っている。そこで何日《いつ》かそのお大と不義を働くようになった。幾次郎に取っては勿怪《もっけ》の幸い、せいぜい女房の御機嫌を取って清七放逐の計略をめぐらしたが、あいにく清七がおとなしい男で、難癖をつけるような科《とが》が無い。そのうちに一昨年《おととし》の五月、幾次郎は清七を府中の闇祭りに連れ出して、その帰りに調布の甲州屋へ誘い込んだ。こうして道楽の味をおぼえさせて
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