という坊主か」
 お住はまだ俯向いていた。
「俊乗が姉さんを絞めたのか。一体おめえの姉さんは生きているのか、死んだのか」と、半七は畳みかけて訊いた。「おめえはふだんから親孝行だそうだが、正直に云わねえとお父《とっ》さんを縛るぞ」
 お住は泣きそうになったが、それでも口をあかなかった。
「おめえと従兄弟《いとこ》同士の源右衛門はどうした。駈け落ちをしたと云うのは嘘で、あの抜け道のなかに埋《うま》って死んだのだろう。その死骸はどこへ隠した」
 お住は飽くまで黙っていたが、嘘だとも云わず、知らないとも云わない以上、無言のうちに、それらの事実を認めているように思われたので、半七は肚《はら》のなかで笑った。
「これほど云っても黙っているなら仕方がねえ。ここでいつまで調べちゃあいられねえ。親父もおめえも連れて行って、調べる所で厳重に調べるからそう思え。さあ、来い」
 幾らかの嚇しもまじって、半七はお住を手あらく引っ立てようとする時、ふと気がついて見かえると、うしろの大きい石塔の蔭から小坊主の智心が不意にあらわれた。彼は薪割《まきわ》り用の鉈《なた》をふるって、半七に撃ってかかった。半七は油断なく身
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