をかわして、その利き腕を引っとらえ、まずその得物《えもの》を奪い取ろうとすると、年の割に力の強い彼は必死に争った。
 そればかりでなく、今までおとなしかったお住も猛然として半七にむかって来た。彼女はそこらに落ちている枯れ枝を拾って叩き付けた。苔《こけ》まじりの土をつかんで投げつけた。眼つぶしを食って半七も少しく持て余しているところへ、それを遠目に見た亀吉が駈けて来た。彼は先ずお住を突き倒して、さらに智心の襟首をつかんだ。御用聞き二人に押さえられて、智心は大きい眼をむき出しながら捻じ伏せられた。
「飛んでもねえ奴だ。縛りましょうか」と、亀吉は云った。
「そんな奴は何をするか判らねえ。一旦は縄をかけて置け」
 智心は捕縄をかけられた。二人はお住と智心を追い立てて、もとの所へ戻って来たが、もう猶予は出来ないので、さらに了哲を追い立てて本堂へむかうと、本堂の仏前には住職の祥慶が経を読んでいた。半七らの踏み込んで来たのを見て、彼はしずかに向き直った。
「昨日《さくじつ》といい、今日《こんにち》といい、御役の方々、御苦労に存じます。大かた斯うであろうと察しまして、今朝《こんちょう》は読経して、皆さ
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