倒れていた。
「もし、この墓は無縁ですかえ」
「そうです」と、了哲はうなずいた。
半七は引っ返して花屋の前に来ると、お住は奥から不安らしい眼をして覗いていた。
「おい、姐《ねえ》さん。ちょいと顔を貸してくれ」
お住を誘い出して、半七は墓場のまん中へ行った。そこには大きい桐の木が立っていた。
四
「おい、お住。おめえの姉さんは何処にいる」と、半七はだしぬけに訊いた。
お住は黙っていた。
「隠しちゃあいけねえ。ひと月ほど前に、おめえが姉さんと一緒に茗荷谷を歩いていたのを、おれはちゃんと見ていたのだ。その姉さんは何処にいるよ」
お住はやはり黙っていた。
「姉さんは殺されて、地蔵さまに縛り付けられていたのだろう」
お住ははっ[#「はっ」に傍点]としたように相手の顔を見上げたが、また俄に眼を伏せた。
「その下手人《げしゅにん》をおめえは知っているのだろう。おれが仇を取ってやるから正直に云え」
お住は強情に黙っていた。
「あの無縁の石塔を引っくり返して、その下から抜け道をこしらえて、地蔵を踊らせたのは誰だ。おめえの姉さんも係り合いがあるだろう。姉さんの色男は誰だ。あの俊乗
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