て見せた。
隠した金を取り出しに来たならば、わざわざ二朱銀五個を袂に入れて来るはずもない。まったく彼は盗んだ金を返しに来たのであった。そう判ると、兼松らもこの若い僧を憎めないような気にもなった。
夜叉神の咎めか、あるいは彼の良心の咎めか、肉付きの面のむかし話にも似たような、一種の不思議を見た為に、彼は今も張子の鬼の面の前に悔悟の涙を流しているのであった。更に不思議と云えば云われるのは、彼が小判と共に二朱銀一個を面箱のなかに押し込んで去ったことである。彼は何分にも慌てていたので、小判五枚は確かにおぼえていたが、二朱銀は五個か六個かはっきりとも記憶していなかった。したがって、二朱銀は全部持ち帰ったものと思っていたのであるが、その一個は面箱のなかに落ちていて、偶然にもおぎんに発見されたのである。
おぎんもこの二朱銀を発見しなければ、単に古い面を持ち帰るに過ぎなかったであろう。二朱銀を発見した為に、おぎんは兼松らに捕えられ、更に箱の底から小判五枚を発見され、又それがために教重も捕えられることになったのである。老練の兼松もここへ来るまでは、別にこれという成案もなかった。おぎんに眼を着けたの
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