が彼の手柄でもあるが、それとても実はまぐれあたりに過ぎない。所詮は面箱のうちに忍んでいた二朱銀一個が、手引きをしてくれたのであった。
「まったく神の業《わざ》です」と、教重がいよいよ恐れたのも無理はなかった。
この時、奥の障子をあけて、女の白い顔があらわれた。それは先刻から門番所に預けられていたおぎんであった。彼女は薄暗い行燈のひかりに教重の顔をのぞきながら云った。
「あら、やっぱりお前さんだったの。どうも聞き覚えのある声だと思ったら……。お前さん、まだ道楽をやめないで、とうとう大変な事を仕出来《しでか》したのねえ」
教重は蒼い顔を俄かに赤くした。
彼はおぎんが品川に勤めている頃の馴染であった。
「この坊さんは斯う見えても、なかなか口がうまいので、あたしばかりじゃあ無い、大勢の女が欺されたんですよ」
なにか昔の恨みがあると見えて、おぎんは遠慮なしに畳みかけるので、教重はいよいよ赤面した。兼松も勘太も笑い出した。
「そんなに弱い者いじめをするなよ」と、兼松は云った。「二朱銀一つだって、ちょろまかせば罪人だが、今夜のところは眼こぼしにしてやる。早くうちへ帰って、亭主の看病でもしろ」
前へ
次へ
全26ページ中24ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 綺堂 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング