せて作ったのでした。これは珍らしいと云うので大変な評判。これだけの兜をこしらえるには、何貫文の銭が要るだろうなぞと、余計な算当をしながら見とれているのもある。
もちろん銭ばかりでは全体が黒ずんでしまって、兜の色の取り合わせが悪いので、前立てや吹き返しには金銀の金物をまぜてありました。金物と云ってもやはり本物で、金は慶長小判、銀は二朱銀を用いていましたから、あの小判が一枚あればなぞと涎《よだれ》を流して覗いているのもある。なにしろ金銀を取りまぜた大兜が、春の日にきらきらと光っているのですから、参詣人の眼をおどろかしたに相違ありません。
この評判があまり高くなったので、寺社方の役人も検分に来ました。たとい小銭にしても、天下通用の貨幣をほかの事に用いるのは、その時代には頗るやかましかったのです。下手な細工をすると、国宝|鋳潰《いつぶ》しという重罪に問われます。今度の兜はただ組み合わせてあるだけで、別にお咎めを受けるほどの事でもなく、折角これだけに出来ているものを取りのけさせるのも如何《いかが》であるから、このまま飾り置くのは仔細ないが、金銀をまぜてあるのは穏かでない。小判と二朱銀だけは早
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