彼は寺男の弥兵衛が奉納小屋を見まわる時刻を知っていた。弥兵衛が暁《あ》け七ツの見まわりを済ませた後、彼は鑿《のみ》と槌《つち》とをたずさえて小屋の内へ忍び込んだ。金や銀は巧みに組み合わせてあるので、定めて面倒であろうと思いのほか、一枚をこじ放すと他はそれからそれへと容易に剥がれた。元来は小判を盗むのが目的であったが、仕事が案外に楽であったので、彼は更に二朱銀五、六個を剥ぎ取った。
そのときにも彼は自分の顔を隠すために、夜叉神堂の古い面をかぶっていた。
四
「どうです、親分。これだけ判ったら面倒はねえ。あとは門番所へ連れて入って、ゆっくり調べようじゃあありませんか」と、勘太は云った。
彼は宵からの張り番に少しく疲れたらしかった。
「じゃあ、ひと休みして調べるか」
二人は教重を引っ立てて門番所へ行った。門番の老爺《おやじ》が汲んで出す番茶に喉を湿《しめ》らせて、兼松は再び詮議にかかった。
「お前はゆうべ此の寺中《じちゅう》に泊まったのか」
「いいえ、自分の寺へ帰りました」と、教重は答えた。「けさの七ツ過ぎに寺をぬけ出して、ここへ忍んで来ました。夜なかに往来をあるいている
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