半七捕物帳
廻り燈籠
岡本綺堂
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)可笑味《おかしみ》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)日本橋|伝馬町《てんまちょう》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)さつき[#「さつき」に傍点]
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一
「いつも云うことですが、わたくし共の方には陽気なお話や面白いお話は少ない」と、半七老人は笑った。
「なにかお正月らしい話をしろと云われても、サアそれはと行き詰まってしまいます。それでも時時におかしいような話はあります。もちろん寄席の落語を聴くように、頭から仕舞いまでげらげら笑っているようなものはありません。まあ、その話に可笑味《おかしみ》があるという程度のものですが、それでもおかしいと云えば確かにおかしい」
いわゆる思い出し笑いと云うのであろう。まだ話し出さない前から、老人は自分ひとりでくすくすと笑い出した。なんだか判らないが、それに釣り込まれて私も笑った。正月はじめの寒い宵で、表には寒詣《かんまい》りの鈴の音《ね》がきこえた。この頃は殆ど絶えたようであるが、明治時代には寒
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