と云うのです。こうなると、娘の色男に手柄をさせたいのは人情ですから、お力は甚五郎を呼んで来て、千次と三人で打ち合わせた上で、千次は金蔵を誘ってさつきへ連れ込む。しかしここですぐに召捕っては、店にも迷惑がかかりますから、金蔵が酔って表へ出るのを待っていて、半丁ほど行き過ぎたところで、甚五郎とその子分二人が御用の声をかけました。こうすれば、行き合い捕りと云うことになって、誰にも迷惑はかかりません。密告者の千次も知らん顔をしていられるわけです。
 金蔵もなかなか手強《てごわ》い奴でしたが、酔っているところを不意に押さえられたので、どうすることも出来ない。ここで脆《もろ》くも縄にかかってしまいました。これで三甚は思いも寄らない手柄をしたのですが、自身番へひかれて行った時に、金蔵はたいそう口惜《くや》しがって、どうでおれは遠島船を腰に着けている人間だから、遅かれ早かれ御用の声を聞くのは覚悟の上だが、いざお縄にかかるという時には、江戸で一、二といういい顔の御用聞きの手に渡る筈だ。こんな駈け出しの青二才の手柄にされちゃあ、おれは死んでも浮かばれねえ。こん畜生、おぼえていろ。おれが生きていればきっと仕
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