ちになりました。その金蔵がどうして三甚の手にかかったかと云うと、ここにちょっと艶《つや》っぽいお話があるのです。
前にも申す通り、二代目の甚五郎、年も若く腕も未熟ですが、小粋な柄行きで男っ振りも悪くない。岡っ引なんていうものは、とかくいやな眼付きをして、なんだかぎすぎすした人間が多いのですが、この甚五郎は商売柄に似合わず、人柄がおとなしやかに出来ている。親父の株があるので、小銭《こぜに》も廻る。そこで、いつの間にか神明前のさつき[#「さつき」に傍点]という小料理屋のお浜という娘と出来てしまって、始終そこへ出這入りをしている。お浜のおふくろも勿論それは承知していたのです。
すると、或る日のこと、この神明のあたりを地廻りのようにごろ付いている千次という奴がさつきの帳場へ来て、幾らか強請《ゆす》りました。毎度のことですから、おふくろのお力《りき》が頭から刎《は》ね付けると、千次が云うには、きょうは唯来たのじゃあねえ、大事の魚《さかな》を売り込みに来たのだから、お前さんから三甚さんに話して、いい値に買って貰いたいと云う。そこで、だんだん訊いてみると、本石町無宿の金蔵がここらに立ち廻っている
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