行く。そこが又いけないと云って、今度は三河嶋へ行く。まるで大根か漬菜《つけな》でも仕入れて歩いているような始末で、まったく大笑いです。つまり疑心暗鬼《ぎしんあんき》とかいう譬えの通りで、怖いと思っているから、少し怪しい奴が立ち廻ると、それが金蔵らしく思われるのです。なにしろ小ひと月のあいだに、高田馬場から四つ家町、板橋、練馬、三河嶋を逃げまわって、松戸の宿《しゅく》まで行ったときに、金蔵が召捕られて先ず安心ということになりました。あははは。科人の逃げ廻るのは珍らしくないが、岡っ引がこれだけ逃げ廻るのは前代未聞で、二代目の三甚、いいお笑いぐさになってしまいました」
「そうでしょうね」と、わたしも笑った。「その金蔵はどこで挙げられたんです」
「いや、それに就いては三甚ばかりを笑ってもいられません。わたくしもお笑いぐさのお仲間入りで……。今もお話し申す通り、植新へ押し掛けて行った奴を一途《いちず》に金蔵と思い込んで、わたくしは一生懸命に追っかけましたが、実はそれも人違いでした」
「金蔵じゃあ無かったんですか」
「金蔵じゃあありませんでした」と、老人はまた笑った。「まあ、お聴きなさい。五月の末
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