鬨《かちどき》を揚げていたのは、戸塚の子分らの大失敗であった。やがて駈けつけて来た市蔵は、半七の顔を見てびっくりした。
「馬鹿野郎」と、彼は子分を叱りつけた。「飛んだ事をしやがる。早く縄を解け」
半七の縄はすぐに解かれた。事の仔細が判明して、子分らは閉口した。白井屋の夫婦も縮みあがった。
「三河町にゃあ何とあやまっていいか判らねえ」と、市蔵もひどく恐縮していた。「こんなぼんくら野郎を叱ってみても追っ付かねえ。まあ、高田馬場の狐につままれたと思って料簡《りょうけん》しておくんなせえ」
「それもこれも商売に身を入れるからの事だ。あんまり叱らねえがいい」
ばかばかしいとは思いながら、半七も仲間同士の義理として、先ずそう云うのほかはなかった。市蔵は子分らを散々あやまらせて、それから近所の髪結いを呼んで、半七の髪を結い直させた。白井屋も恐れ入って、あらん限りの肴を運び出して来た。一座は打ち解けて、笑い声が高くなった。そのうちに、市蔵は少しくまじめになって云い出した。
「この野郎共がのぼせるのも、まんざら理窟がねえ訳でもねえので……。石町の金蔵はどうもこの辺に立ち廻っているらしい。と云うのは、
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