を騙《かた》ってここへ押し掛けて来たのではないかと疑ったのである。
 もう一つ、間違いの種となったのは、半七と金蔵とが年頃といい、人相や格好までが可なりに似通っていることであった。その時代の人相書などは極めて不完全なものであるから、疑いの眼をもって見れば、鷺を烏と見誤るようなことが無いとは云えなかった。雑司ヶ谷から帰って来た白井屋の女房は、遠目《とおめ》に半七をうかがって一途《いちず》にそう信じた。亭主も同じ疑いを懐《いだ》いていたので、夫婦は相談の上で戸塚の市蔵に密告した。
 市蔵がすぐに出て来れば、もちろん何の間違いも起こらなかったのであるが、市蔵も留守、古参の子分も留守、そこに居合わせた若い子分二人があっぱれの功名手柄をあらわすつもりで、すぐに駈けつけて来た。相手は牢抜けの大物であると云うので、場馴れない彼等は少しく逆上《のぼ》せ気味で、なんの詮議もなしに召捕ろうとしたのである。科人が人違いと誤魔化すのは珍らしくないので、いかに半七が人違いと呶鳴っても、彼等は耳にもかけずに押さえ付けたのである。
 数ある捕物のうちには、人違いの仕損じもしばしばある。しかも同商売の岡っ引を縛って勝
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