おびき寄せ、藤吉ぐるめに召捕るという手だてが無いでもない。
「おれが出しゃばるのも好くねえが、年の若けえ三甚だけじゃあ何だか不安心だ。あしたは芝口へ出かけて行って、なんとか知恵を貸してやろう。ここでうまく金蔵を召捕りゃあ三甚も二度の手柄になるというものだ」

     三

 その明くる朝は雨も止んだが、まだ降り足らないような空模様であるので、半七は邪魔になる雨傘を持って芝口へ出向いた。
 三甚の家は江戸屋という絵草紙屋の横町の左側で、前には井戸がある。その格子をあけて案内を乞うと、内から若い子分が出て来た。こちらではその子分の顔を識らなかったが、相手は半七を見識っていて丁寧に挨拶した。
「三河町さんでございますか。まあ、どうぞこちらへ」
「親分は内かえ」
「へえ」と、子分はあいまいに答えた。
 その応対の声を聞いて、またひとりの子分が出て来た。それは石松といって、半七の家へも二、三度は顔を見せた男であった。
「親分にちょいと逢いてえのだが……」と、半七はかさねて云った。
「へえ」と、石松もなんだかあいまいな返事をして、若い子分と顔をみあわせていた。
「留守かえ」
「へえ」
「どこへ出
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