度になるから、これも旋風にこじつけたものと察せられます。前が天狗で、後が旋風、こういうことで何とか申し訳が立つのですから、今から思えば面白い世の中でした。
これで済んでしまえば、何が何やら判らずじまいです。それにしても江戸城表玄関に立ちはだかって、天下を即刻拙者に引き渡すべしと呶鳴ったなぞは、権現さま以来ただの一度もない椿事ですから、その噂は自然に洩れて、忽ちぱっと世間に広がりました。そいつも御金蔵破りの同類で、白昼大胆にも御玄関先きから忍び込もうとしたのだなぞと、尾鰭《おひれ》を添えて云い触らす者もある。川越の屋敷から受け取った以上、取り逃がしたのはこちらの責任で、表向きは旋風で済んでも、坂部さんは不首尾です。そこで内所《ないしょ》でわたくしを呼んで、その次郎兵衛のゆくえを探し出してくれ、それで無いと、自分の顔が立たないと云うのです。
しかし、坂部さんは縄ぬけを正直に云いません。どこまでも旋風に巻いて行かれたように話しているのです。わたくしの方でも大抵は察していますから、野暮な詮議もしませんが、さてどこから手を着けていいか見当が付きません。笠に書いてある川越次郎兵衛、臍緒書の粂次
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