郎、この二人の身許を探るのが先ず一番の近道ですが、今と違って汽車は無し、十里以上も離れた土地になると、その探索がなかなか不便です。
そんな事でぐずぐずしているうちに、それからそれへと御用が湧いて来るので、旅へ出るような暇がありません。もう一つには、その次郎兵衛という奴は気違いらしい。折角苦労して探し当てたところで、やっぱり気違いであったと云うのでは、どうも張り合いがない。坂部さんには気の毒ですが、思い切って働いてみようという気も出ないので、かたがた一日延ばしにもなってしまったのです。ところがあなた……。世の中というものは不思議なもので、その次郎兵衛とわたくしとは、どこまでも縁が離れないのでした」
二
『金の蝋燭』の一件も片付き、ほかの仕事も片付いたのは、四月の二十日《はつか》過ぎである。少しくからだに暇が出来たので、宇都宮か川越へ踏み出してみようかと、半七は思った。
外神田に万屋《よろずや》という蝋燭問屋がある。そこは養父の代から何かの世話になって、今でも出入りをしている店であるので、半七はその前を通ったついでに、無沙汰ほどきの顔を出すと、番頭の正兵衛が帳場に坐ってい
前へ
次へ
全48ページ中9ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 綺堂 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング