長も頗る意外に感じたらしい。それにつけても第一の問題は、かれらを買収して髪切りのいたずらを実行させた本家本元である。根井は暫く考えながら云った。
「こんにちの世の中だから、誰が何をするか判らないが、それについてはどうも心あたりが無い。お前にはもう探索が届いているのか」
「還俗坊主を取りおさえただけで、その相棒の米吉の居どころがまだ判りません」と、半七は答えた。「良住は髪切り一件には係り合いがないと云って居ります。そんなわけで、誰が金を出して、誰が頼んだのか、そこまでは探索が行き届いて居りませんのでございます」
「むむ。鮎川と増田を詮議すれば判る筈だ」
「それで今朝うかがいましたのでございます」
「よく知らせてくれた」と、根井はすぐに立ちかけた。「そこで、代地の一件だが……。お園という女の髪を切ったのは誰だ。やはり鮎川と増田かな」
「まあ、そうだろうと思いますが……」
屯所は夕七ツが門限で、その以後の外出は許されない筈である。それにも拘らず、歩兵らは往々夜遊びに出る。今後はその取締りを厳重にしなければならないと、根井は云った。鮎川も増田も夜なかに脱《ぬ》けだしてお園の宅を襲ったのであろ
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