じ二十四日の晩に、下谷金杉の高崎屋という質屋へも二人組の押込みがはいりました。その一人は髪を切っていたと云うことでしたが、この良住は還俗するつもりとみえて、いが栗頭を長く伸ばしていて、髷を切ったような形にも見えます。その上、懐中には身分不相当の大金を持っているので、こいつが下谷の押込みではないかと睨みまして、きびしく吟味すると案の通りでございました」
「もう一人の同類は誰だ。鮎川か」と、根井は待ち兼ねたように訊いた。
「いえ、これもあなたが御存知のない者で……。湯島天神の藤屋という小料理屋に女中奉公をしているお房という女がございます。その兄の米吉というならず者でございます」
「では、この二人は屯所に関係はないな」
「左様でございます」
 しかし、まったく関係がないとは云えない。鮎川丈次郎はお房の関係から彼《か》の米吉と知合いになった。そうして、米吉の手から金銭をうけ取って髪切りの役目を引き受ける事になったらしい。増田太平も遊蕩の金に困って、鮎川と米吉に誘い込まれたのであろうと、半七は説明した。
 燈台もと暗しと云うか、足もとから鳥が立つと云うか、自分の部下からこの犯人を見いだして、小隊
前へ 次へ
全46ページ中35ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 綺堂 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング