っぱりいけないんですねえ」と、お房は又云った。
「第二小隊……。その四人はなんという人だえ」
「鮎川さん、三沢さん、野村さん、伊丹さんです」
「鮎川さん……。丈次郎というのか」
「ええ、丈次郎というのです」
 鮎川丈次郎は二度目に髷を切られた男である。半七は笑った。
「ほかの人は知らねえが、その鮎川さんはおめえの所へ顔出しは出来ねえ筈だ。えて[#「えて」に傍点]ものにちょん切られたのだからな」と、半七は自分の髷を指さした。
「あら、それじゃあ鮎川さんも……。まあ」
 お房も髪切りの噂を知っているらしく、ひどく驚いたように半七の顔を見あげた。

     三

 その当時の半七は神田三河|町《ちょう》に住んでいたのであるから、小川|町《まち》から遠くない。お房に別れてひと先ず自分の家へ帰ると、亀吉と弥助が待っていた。
「屯所へ呼ばれたそうですね。髪切りの一件ですかえ」と、亀吉はすぐに訊いた。
「そうだ、猿や狐じゃあ無さそうだと云うのだ」
 半七からひと通りの話を聞かされて、二人はかんがえていた。
「しかし、その築山というのがおかしい。そこに何か巣食っているのじゃあありませんかね」と、弥助
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