調べを致して置きますが、金右衛門も為吉も土地では相当の農家で、金右衛門は三十八、娘のおさんは十六、為吉は二十一で、妹のお種は十七、双方は何かの遠縁にあたっていて、来年はおさんを為吉の嫁にやるという約束も出来ていたのですから、云わば一家も同然の間柄で、金右衛門が自分の親類をたずねると云えば、為吉|兄妹《きょうだい》も付いて行くという事になったのです。
金右衛門の一行四人は先ず四谷|塩町《しおちょう》の親類をたずねて、ここで午飯《ひるめし》を馳走などになって、それから千駄ヶ谷|谷町《たにまち》に住んでいる親類をたずねることになりました。その親類もやはり下総屋といって、米屋をしているのです。その頃は何処へ行くも徒歩《かちある》きですから埓は明きません。おまけに江戸の勝手をよく知らない人たちが道を訊きながら歩くのですから、いよいよ捗取《はかど》らない。その日の八ツ半(午後三時)頃に青山六道の辻にさしかかりました。
六道の辻なぞと云うと、なんだか幽霊でも出そうな、凄い所のようにも思われますが、道の都合で四辻が二つある。それが続いているので、東から来る道がふた筋、西から来る道がふた筋、それに南
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