戸へ続々出て来るというわけで、芝居はいよいよ繁昌しました。もちろん芝居の方でも抜け目がなく、今度の宗吾を上演するに就いては、座方《ざがた》の者がわざわざ佐倉まで参詣に出かけ、大いに芝居の広告をして来たのでした。こんなことは昔も今も変りはありません。
その佐倉領のうちで、村の名は忘れましたが、金右衛門、為吉という二人の百姓が江戸へ出て来ました。これも中村座見物の連中で、十五人づれで馬喰町《ばくろちょう》の下総屋に宿を取っていたのです。金右衛門は娘のおさん、為吉は妹のお種を連れていましたが、江戸へ着いた翌日は先ず中村座見物、あとの二日は思い思いに江戸見物をして、それからみんな一緒に帰国するという約束。そこで、第一日の中村座では、宗吾の子別れで泣かされ、宗吾の幽霊で嚇《おど》かされ、無事に見物を済ませたので、二日目からは勝手に出あるく事になる。金右衛門と為吉は四谷と青山に親類があるので、江戸へ出た以上、そこを尋《たず》ねなければならないと、二人は他の一行に別れて馬喰町の宿を出ました。九月末の晴れた日で、おさんとお種の女たちも勿論連れ立って行きました。
お話の判り易いように、ここで少し戸籍
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