筋だ」
「居留地の異人館の一件ですがね、去年の九月、男異人ふたりと女異人ひとりが江戸見物に出て来て、団子坂で殴られたり石をぶつけられたり、ひどい目に逢った事があるそうですね」
「むむ。おれもそれに係り合ったのだ。その異人がどうかしたのか」
「男異人のひとりはハリソン、ひとりはヘンリー、女はアグネスといって、ハリソンとアグネスは夫婦なんです」と、三五郎は説明した。「ところが、この八日の晩に、ハリソン夫婦が変死したので……。亭主のハリソンは自分の部屋の寝台の上に、喉《のど》を突かれて死んでいる。女房のアグネスは庭の木の蔭に倒れているというわけで、もちろん下手人《げしゅにん》は判りません。そこで、その探索を戸部の奉行所へ頼んで来たのですが、相手が異人だけに手を着けるのがむずかしい。異人の方じゃあ日本人が殺したことに決めているようですが、異人同士だって人殺しをしねえとは限らねえから、この探索はなかなか面倒ですよ」
「アグネスとかいう女房も殺されたのだな」
「そうです。だが、こいつは少しおかしい。なにかの獣《けもの》に喉と足を啖《く》われたらしい。最初に右の足を咬まれて倒れたところへ、また飛びつ
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