住居で、家内も綺麗に片付いているらしかった。おころはさっき一度帰って来て、すぐ又出て行ったと、隣りの女房が話した。
半七はその女房をつかまえて、おころのことを何か聞き出そうとしたが、壁ひとえの隣りに住みながら彼女はなんにも知らないと云った。唯その女房の口からこんなことが洩らされた。
「よくは知りませんが、おころさんには息子があって、どこかの屋敷奉公をしているそうです」
「その息子は時々たずねて来ますかえ」
「めったに来たことはありませんが、一年に二、三度くらいはたずねて来るようです」
「屋敷奉公といっても侍じゃああるめえ。足軽か中間だろうね」
「まあ、そうでしょうね」
「ここの家《うち》へ占いを頼みに来る人がありますかえ」と、半七は訊《き》いた。
「ここへ頼みに来る人は少ないようです。大抵は自分の方から出て行くのです」
「それじゃあ狐を連れて行くのだね」
「そうかも知れません」
余り多くを語るをはばかるように、女房は口をつぐんだ。半七もいい加減に打ち切ってそこを出た。おころという女がたとい狐を使うとしても、他人《ひと》に格別の害をあたえない限りは、そのままに見逃がして置くのが其の時
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