に相違ねえ。女は列《なら》び茶屋のお米だ。もう一人の男が判らねえ」
「音造じゃありませんか」と、善八は訊いた。
「そうじゃあねえらしい。年頃は四十ぐれえで、堅気らしい風体《ふうてい》だったと云うから、お米の兄きとか叔父とかいう奴じゃあねえかと思う。なにしろ其奴《そいつ》が手をおろした本人だから、下手なことをやって、そいつを逃がしてしまうと物にならねえ。信次郎やお米はいつでも挙げられる。まず其の下手人を突き留めにゃあならねえ」
「じゃあ、すぐに洗って見ましょう」
「むむ。お米の親類か何かに大工のような商売の者はねえか、気をつけてくれ。下谷の長助も大工だが、あいつじゃねえ」
「ようがす。今夜じゅうに調べます」と、善八は請け合った。
子分ふたりに途中で別れて、半七は八丁堀へむかった。
日が暮れて、涼しい風が又吹き出した。油断すると寝冷えするなどと云いながら、四ツの鐘を聞いて寝床にはいると、その夜なかに半七の戸を叩いて、松吉が飛び込んだ。
「親分、たいへんな事が出来やした。駿河屋の信次郎が殺された」
「駿河屋が殺された……」と、半七もおどろいて飛び起きた。
「まだ死にゃあしねえが、もうむず
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