で、前々からお馴染であったんです。今度もその白雲堂へ駈けつけて、植疱瘡の一件を占ってもらうと、幸斎という奴が仔細らしく筮竹《ぜいちく》をひねって、これは正《まさ》にいけない。この植疱瘡をすれば、牛になるの、ならないの論ではない。主人の子供は七日のうちに命を失うに決まっていると云う。そうでなくても不安心でいるところへ、こんな判断を聞かされて、お福は真っ蒼になってしまいました。
それではどうしたらよかろうと相談すると、差しあたりは本人の玉太郎をどこへか隠すよりほかは無い。そのうちには自然の邪魔がはいって、植疱瘡もお流れ……。無期延期になるに相違ないと教えられたので、お福もとうとう其の気になったんです。女の浅はかとひと口に云ってしまえばそれ迄ですが、お福としては一生懸命、先代萩の政岡といったような料簡で、忠義|一途《いちず》に坊ちゃんを守護しようと決心したんですから、今の人が笑うようなものじゃあありません。考えてみれば、可哀そうでもあります」
「根岸の親たちも味方なんですか」
「白雲堂に知恵をつけられて、その後で根岸へまわって、その一件を打ち明けると、魚八の夫婦も無論にむかし者で、やはり植
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