をすれば、玉のような顔が鬼瓦のように化けるかも知れない。それを思うと、あくまでも反対するわけにも行かないので、つまりは孫が可愛さから、まあ渋々ながら同意することになったんです。若主人夫婦も植疱瘡をたしかに信用しているわけでも無いんですが、いけないにしても元々だぐらいの料簡で、半信半疑ながらもともかくも植えさせることにして、近いうちに玉太郎を種痘所へ連れて行く……。さあ、それが事件の発端《ほったん》です。と云うのは、この植疱瘡については、乳母のお福が大反対で、牛の疱瘡を植えれば牛になると信じている。大事の坊ちゃんに牛の疱瘡などを植えられては大変だというので、ずいぶん手強く反対したらしいんですが、しょせん主人には勝てない。といって、どうしても坊ちゃんに植疱瘡をさせる気にはなれない。そこで、まず相談に行ったのが浅草馬道の白雲堂です。相談じゃあない、占いを見て貰いに行ったんです」
「白雲堂は前から識っていたんですか」
「お福はお神籤《みくじ》とか占いとかいうものを信じる質《たち》で、田町の次郎吉の家《うち》へ縁付いている間にも、観音さまへ行ってお神籤を取ったり、白雲堂へ寄って占ったりしていたの
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