れとも息子が売りに出るのですかえ」
「さあ、それはどうでしょうか」と、要助も首をかしげていた。
「いや、大抵はわかりました。お乳母さんの事もまあ心配することは無いでしょう。それからもう一つ訊きたいのは、そのお福は占《うらな》いに見て貰うとか、お神籤《みくじ》を頂くとか、そんな事をしますかえ」
「はい。子どもには死に別れ、亭主には生き別れ、とかくに運の悪い女でございますので、自然と占いやお神籤を信仰するようになりましたようで、時々にそんな話をして居ります」
 河豚太鼓、白雲堂、それらの糸の繋がりがだんだんに判って来たように思われたが、まだ迂濶なことは云われないので、半七はいい加減に挨拶して番頭を帰した。あずま屋の女房の話は本当で、その太鼓売りは魚八のせがれの佐吉か、或いはその友達であろう。又はかの次郎吉であるかも知れない。いずれにしても、佐吉らは乳母のお福と云い合わせて、玉太郎をかどわかしたものと認められる。お福はなぜ家出をしたか、その仔細はちょっとわかり兼ねるが、この一件に係り合っている以上、主人や番頭が心配しているような事はあるまい。彼女は恐らく無事で、どこにか身をかくしているに相違
前へ 次へ
全48ページ中26ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 綺堂 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング