ゆすって金を取るという手は往々ある。乳母のお福は正直者であると云っても、以前の亭主に未練がある以上、それにそそのかされて何かの手伝いをしないとも限らない。
それにしてもその玉太郎という子供をどこへ隠したか。裏店住居の次郎吉や、床店《とこみせ》同様の白雲堂が、自分の家に隠しておくことはむずかしい。彼等のほかに共謀者が無ければならない。迂濶に騒ぎ立てては、その共謀者を取り逃がすばかりか、玉太郎の身に禍いするような事が出来《しゅったい》しないとも限らない。もう少し探索の歩みを進めて、かれらが犯罪の筋道を明らかにする必要があると半七は思った。
「じゃあ差しあたりは二人に頼んでおく。庄太は近所の次郎吉と白雲堂に気をつけてくれ。弥助の受け持ちは根岸の魚八だ。その魚屋にどんな奴らが出這入りをするか油断なく見張ってくれ」
めいめいの役割を決めて、半七は一旦ここを引き揚げた。帰り途に外神田へさしかかって、菊園の前を通り過ぎながら、横眼に店をちらりと覗くと、番頭の姿はそこには見えなかった。あずま屋の暖簾《のれん》をかけた隣りの菓子屋には、ひとりの女が腰をかけて、店の者と話している。それが菊園の乳母のお
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