と、寺は橋場であった。八ツ(午後二時)過ぎに寺を出て、ほかの会葬者とあとさきになって帰る途中で、半七はふと思いついた。子分の庄太の家は馬道《うまみち》である。弥助をけさ出してやったものの、自分も道順であるからちょっと立ち寄ってみようと、馬道の方角へぶらぶら辿ってゆくと、庄太は懐ろ手をして露路の入口に立っていた。
「やあ、親分。どこへ……」
「橋場の寺まで行って来た」
「弔《とむれ》えですか」
「むむ。弥助は来たか」
「まだ来ません。何かあったのですか」
「すこし頼んだことがあるのだが……。あいつは気が長げえから埓が明かねえ」
「まあ、おはいんなせえ。だが、きょうはあいにくの日で、大変ですよ。隣りの長屋二軒が根継《ねつ》ぎをするという騒ぎで、露路のなかはほこりだらけ……。わっしも家《うち》にいられねえから、表へ逃げ出して来たような始末で……」
庄太は笑いながら先に立って引っ返すと、なるほど狭い露路のなかは混雑して、二軒の古い長屋は根太板《ねだいた》を剥がしている最中であった。そのほこりを袖で払いながら、その長屋の前を足早に通り過ぎようとする時、なにか半七の眼についた物があった。
「おい
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