気が三人の肌に迫って来た。ここで降り出されては困ると思って、三人はすこし足を早めて下山《げざん》の路にさしかかると、何を見たかお袖は俄かに立ちどまった。彼女は無言で母の袖をひくと、お琴も立ちどまった。お由もつづいて足をとめた。かれらは路ばたの杉の大樹のあいだに、ひとりの少女の立ち姿を見いだしたのである。
少女は十二三歳ぐらいで、色の蒼白い清らかな顔容《かおかたち》であった。白地に鱗《うろこ》を染め出した新らしい単衣《ひとえ》を着て、水色のような帯を結んでいた。それらの事はともかくも、今この三人の注意をひいたのは、少女の黒髪である。彼女の髪は切禿であった。
前にも云う通り、この頃のコロリ騒ぎのために、明神参詣の人々も俄かに増して、かむろ蛇のおそろしい伝説も暫く忘れられたような姿であったが、その伝説がまったく掻き消されたのではない。きょうの曇った暗い日に、ここで切禿の少女のすがたを目前に見いだした三人が、異常の恐怖に襲われたのも無理はなかった。かれらの顔は少女の帯とおなじような水色になって、一旦はそこに立ちすくんでしまった。
お由はお袖よりも年上の十九歳である。殊にふだんから勝気の女
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