ねえからの事で、確かに蝮に咬まれたのかどうだか、医者にもよく見立てが付かねえようですよ」
「やっぱり蝮だろうな」と、半七は云った。
「蝮でしょうか」と、善八もうなずいた。「そうすると、喧嘩にもならねえ。いくら次右衛門がじたばたしても、追っ付かねえ訳ですね」
「いや、喧嘩にならねえとも限らねえ。そのお由というのはどんな女だ」
「お由は十九で、家《うち》の娘とは一つ違いです。家の娘はお袖と云って、ことし十八。表向きは主人と奉公人のようになっていますが、つまり従妹《いとこ》同士《どうし》で、どっちも容貌《きりょう》は良くも無し、悪くも無し、まあ十人並というところでしょうが、お由の方が年上だけにませていて、男好きのする風でした」
「関口屋の裏の四軒長屋には誰と誰が巣を食っている……」
「コロリで死んだ大工の年造、それから煙草屋の大吉、そのほかに仕立屋職人の甚蔵、笊《ざる》屋の六兵衛……。甚蔵と六兵衛には女房子《にょうぼこ》があります」
「大吉というのは年造の隣りにいる奴だな。そりゃあどんな奴だ」
「二十三四の、色の生《なま》っ白《ちろ》い、華奢《きゃしゃ》な奴です。生まれは上方《かみがた》で、
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