屋の正体で、この謎が解けなければ、この話は終ったとは云えない。老人が煙管《きせる》をぽんと掃《はた》くのを待ち兼ねるように、私は重ねて訊《き》いた。
「そこで飴屋はどうなりました」
「はははははは」と、老人は笑い出した。「これはお話をしない方がいいくらいで……。飴屋は四、五日ほど姿を見せないで、又あらわれて来ました。もう打っちゃっては置けないので、庄太が取《と》っ捉《つか》まえて詮議すると、いや、もう、意気地のない奴で、小さくなって恐縮している。だんだん調べると、こいつは外神田の藤屋という相当の小間物屋のせがれで、名はたしか全次郎といいました。稽古所ばいりをする、吉原通いをする。型のごとくの道楽者で、お定まりの勘当、多年出入りの左官屋に引き取られて、その二階に転がっていたんですが、ただ遊んでいても仕方がない、勘当の赦《ゆ》りるまで何か商売をしろと勧められた。といっても根が道楽者だから肩に棒を当てるようなまじめな商売も出来ない。そこで考えたのが唐人飴、ちっとは踊りが出来るので、これがよかろうと云うことになったが、さすがに江戸のまんなかでは困るので、遠い場末の青山辺へ出かけることになったん
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