です。
 相当の店の若旦那が飴屋になって、鉦をたたいて踊り歩く。他人《ひと》から見れば随分気の毒なわけですが、当人頗るのん[#「のん」に傍点]気で、往来でカンカンノウを踊っているのが面白いという始末。どうも困ったもので、これでは勘当はなかなか赦りません。おまけに女親が甘いので、勘当とはいいながら内証で小遣いぐらいは届けてくれるので、飴は売れても売れないでも構わない。道楽半分に歌ったり踊ったりしている。正体を洗えばこういう奴で、隠密も泥坊もあったもんじゃない。実に大笑いでした。それでも唐人の腕が二度も斬られたと云うので、自分もなんだか気味が悪くなって、四、五日ばかり場所をかえて、青山辺へは寄り付かなかったんですが、馴染《なじみ》のない場末は面白くないと見えて、又もや青山辺へ立ち廻って来たところを庄太に押さえられたんです。
 青山辺を荒らした賊は別にあるので、これは又あらためてお話をする時がありましょう。全次郎はその正体が判ったので、俄かに信用を回復して、飴もよく売れるようになったそうです。何が仕合わせになるか判りません」



底本:「時代推理小説 半七捕物帳(五)」光文社文庫、光文社

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