限って不思議に嫉妬深い。それで、このごろ小三の楽屋へはいって来た照之助と、小三津が人一倍に仲よくするというのがもとで、小三津を自分の二階へ呼び付けて、やかましく責め立てる。云わば女同士の痴話喧嘩、それが嵩《こう》じて文字吉は半狂乱、そこにあった手拭をとって小三津を絞め殺してしまったが、さてどうするという分別もなく、死骸を戸棚へ押し込んだままで、自分はその張り番をするように、唯ぼんやりと坐っていたんです。それも十二日、照之助が角兵衛の腕を斬ったのと同じ晩のことで、狭い土地にいろいろの事件が湧いたものです。その翌日も、又その次の日も、文字吉は碌々に飲まず食わず、自分も半分は死んだようになって、その戸棚の前に坐り込んでいるところへ、わたくし共が踏み込んだのでした。
 だんだん調べてみると、文字吉は小三津のほかに、囲い者やら後家さんやら併《あわ》せて八人の女に関係していることが判りました。それがみんな色と慾で、女を蕩《たら》して自分のふところを肥やしているという、まったく凄い女でした。こんな奴とはちっとも知らずに、酒屋の亭主は世話をしていたので、それを聞いて真っ蒼になって驚いていました。文字吉
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