の横六畳の座敷へ通されたが、飴の話はまだ終らなかった。
「今の人たちは飴細工とばかり云うようですが、むかしは飴の鳥とも云いました」と、老人は説明した。「後にはいろいろの細工をするようになりましたが、最初は鳥の形をこしらえたものだそうです。そこで、飴細工を飴の鳥と云います。ひと口に飴屋と云っても、むかしはいろいろの飴屋がありました。そのなかで変っているのは唐人《とうじん》飴で、唐人のような風俗をして売りに来るんです。これは飴細工をするのでなく、ぶつ切りの飴ん棒を一本二本ずつ売るんです」
「じゃあ、和国橋《わこくばし》の髪結い藤次の芝居に出る唐人市兵衛、あのたぐいでしょう」
「そうです、そうです。更紗《さらさ》でこしらえた唐人服を着て、鳥毛の付いた唐人笠をかぶって、沓《くつ》をはいて、鉦《かね》をたたいて来るのもある、チャルメラを吹いて来るのもある。子供が飴を買うと、お愛嬌に何か訳のわからない唄を歌って、カンカンノウといったような節廻しで、変な手付きで踊って見せる。まったく子供だましに相違ないのですが、なにしろ形が変っているのと、変な踊りを見せるのとで、子供たちのあいだには人気がありました
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