七は云った。「あいつの拝み方が気に入らねえ。そりゃあ芸人のことだから、不動さまを信心しようと、仁王さまを拝もうと、それに不思議はねえようなものだが、唯ひと通りの拝み方じゃあねえ。あいつは真剣に何事か祈っているのだ」
「そりゃあ役者だから、自然にからだの格好が付いて、真剣らしく見えるのでしょう」
「いや、そうでねえ。舞台の芸とは違っている。あいつは本気で一生懸命に祈っているのだ。あいつは浅川の芝居の役者だというが、どうもそうで無いらしい。さっき見た小三の芝居にあんな奴が出ていた。第一、おれの腑に落ちねえのは、小三の芝居は女役者だ。その一座に男がまじっているという法はねえ。宮地の芝居だから、大目に見ているのかも知れねえが、男と女と入りまじりの芝居は御法度《ごはっと》だ。恐らく虎になる役者に困って、男芝居の役者を内証で借りて来たのだろうと思うが、その役者が眼の色を変えて仁王さまを拝んでいる……。それがどうも判らねえ。なにか仔細がありそうだ」
「そこで、わっしはどうしましょう」
「そうだな」と、半七は又かんがえながら云った。「まあ仕方がねえ。おめえはもう少しここらを流しあるいて、何かの手がかり
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