してね」
「なんだ。馬鹿に早えな」
 顔を洗ったばかりの半七が茶の間の長火鉢の前に坐り直すと、幸次郎は直ぐに話し始めた。
「実は庄太と手分けをして、わっしは築地の三河屋の近所に張り込んでいると、ゆうべのかれこれ四ツ(午後十時)頃でしたろう。あの船宿から頬かむりをして出て行く奴がある。小半町ばかり尾《つ》けて行って、本願寺橋の袂でだしぬけに『おい、兄《あに》い』と声をかけると、そいつはびっくりしたように振り返る。よく見ると、まんざら知らねえ奴でもねえ、深川の寅という野郎で……」
「深川の寅……。どんな奴だ」
「やっぱり船頭で、大島|町《ちょう》の石置場の傍にいる寅吉という奴です。船頭といっても、博奕が半商売で、一つ間違えば伝馬町《てんまちょう》[#「伝馬町《てんまちょう》」は底本では「伝馬町《でんまちょう》」]へくらい込むような奴で……。そいつが三河屋から出て来たから、こりゃあ詮議物だと思って、いろいろに膏《あぶら》を絞ってみたのですが、友達の千太をたずねて来たと云うばかりで、ほかにはなんにも云わねえのです。千太は居たかと訊くと、このあいだから姿を隠しているので、三河屋でも探していると云
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