題はない。殊に今の場合であるから、話は当然かの一件をくり返すことになって、娘をうしなった母の眼からは、また今さらに新らしい涙が湧いた。お富の話によると、亭主の長五郎も正直な職人|気質《かたぎ》の人物であるらしく、娘は多年御恩を受けた殿さまのお供をしたのであるから、死んでも悔むことは無いと云っている。又、それに就いて、お屋敷の御迷惑になるような事は決して口外してはならないと、女房らをも堅く戒めているとのことであった。
「親方の御料簡はよく判っています」と、半七も同情するように云った。「しかし世間の口はうるさいもので、今度の一件に就いてもいろいろの噂を立てる者がありますよ」
「どんなことを云って居ります」と、お富は眼をふきながら訊《き》いた。
「実は……。お前さん達の前じゃあ云いにくい事ですが……」と、半七は渋りながら答えた。「誰かが船底へ細工をして……」
「やっぱりそんなことを云って居りますか」
「お部屋さまを沈めようとした……」
云いかけて相手の顔色を窺うと、お富は黙って考えていた。
「そんなことを云っちゃあなんですが……。どこのお屋敷でも、奥さまとお部屋さまとは折り合いのよくないも
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