。
或いは屋敷内や親類じゅうの議論が二つに分かれているのではないか。一方は家名を傷つけるのを憚《はばか》って、何事も秘密に葬るがよいと云い、一方は飽くまでも其の正体を確かめて、その罪人を探し出すがよいと云う。要するに、何事もお家《いえ》には換えられぬという弱気筋と、たとい家をほろぼしても屹《きっ》と善悪邪正を糺《ただ》せという強気筋とが二派に分かれて、こういう結果を生み出したのでは無いか。いずれにもせよ、自分は役目として、探るだけのことは探らなければならないと、半七は思った。
「おかみさんは留守、親方は寝ているというのを無理に引き摺り起こすのもよくねえ。きょうはこれで帰るとしよう」
半七は岸へあがって金八に別れた。
「親分。傘を持って行きませんか。なんだかぼろ[#「ぼろ」に傍点]付いてきましたぜ」
「おめえのうちの傘には印《しるし》が付いているだろうから、何かの邪魔だ。まあ、たいしたこともあるめえ。このまま行こう」
なま暖い風は湿《しめ》りを帯びて、軒の柳に細かい雨がはらはら[#「はらはら」に傍点]と降っかけて来た。半七は手拭をかぶって歩き出した。
三
浅井因幡守
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