をあげて逃げまわるのを、かれは執念ぶかく追いまわした。
それを見て、店の男や女もおどろいて、彼らは鶏を叱って追いやろうとしたが、かれは狂えるように暴《あ》れまわって、あくまでも女を追い搏《う》とうとするのである。半七も庄太も見かねて立ちあがると、女は逃げ場を失ったように庄太のうしろに隠れた。鶏は五、六尺も飛びあがって、又もや女を搏とうとするので、半七は持っている煙管《きせる》で一つ撃った。撃たれて一旦は土間に落ちたが、かれはすぐに跳ね起きて又飛びかかって来た。その燃えるような眼のひかりが鷹よりも鋭いのを見て、半七もぎょっ[#「ぎょっ」に傍点]としたが、この場合、なんとかして女を救うのほかは無いので、手早く羽織をぬいで鶏にかぶせると、店の者も駈け寄った。男のひとりは伏せ籠を持って来て、暴れ狂う鶏をどうにか斯うにか押し込んだが、かれはその籠を破ろうとするように、激しく羽搏《はばた》きして暴れ狂っていた。
不意の敵におそわれて、女は真っ蒼になっていた。くちばしに刺されたのか、蹴爪に撃たれたのか、彼女は左右の脚を傷つけられて、白い脛《はぎ》からなま血が流れ出していた。飛びあがって来たときに
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