の切れ上がった粋な女ですね」
「それだから火を借りに行ったのじゃあねえかえ」と、半七は笑った。
「まあ、まあ、そんなものさ」
庄太も笑いながら後《あと》を見かえると、女は雪どけ道に悩みながら、おなじく江戸へむかって来るらしかった。町屋から蒲田へさしかかって、梅屋敷の前を通り過ぎたが、あまり風流気のない二人はそのまま素通りにして、大森に行き着くと、名物の麦わら細工を売る店のあいだに、休み茶屋を兼ねた小料理屋を見つけた。
「親分。少し休ませて貰えねえかね。寒くってどうにもこうにも遣り切れねえ」と、庄太は泣くように云った。
「一杯飲みてえのか。まあ、附き合ってやろう」と、半七は先に立って茶屋へはいった。
奥には庭伝いで行けるような小座敷もあったが、坐り込むと又長くなるというので、二人は店口の床几《しょうぎ》に腰をおろして、有り合いの肴《さかな》で飲みはじめた。半七は多く飲まないが、庄太は元来飲める口であるので、寒さ凌《しの》ぎと称してむやみに飲んだ。
「いいかえ、庄太。あんまり酔っ払うと置き去りにして行くぜ」
「そんな邪慳《じゃけん》なことを云わねえで、まあ、もう少し飲ませておくんなせえ
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