が、その時にはなんにも知らないで、あわてて留めてしまいました」
「お六という女も召し捕られたんですね」
「これもすぐに召し捕りましたが、例の鶏《とり》に突かれたり蹴られたりした幾カ所の疵が膿《う》んで熱を持って、こんにちで云えば何か悪い黴菌《ばいきん》でもはいったんでしょう、ようよう這って歩くような始末なので、駕籠に乗せて連れて行きました。この方はもう大抵お察しでしょうが、勇二は塚田の屋敷に中間奉公している頃から、浅草の鳥亀へ軍鶏《しゃも》や鶏を食いに行って、女房のお六と関係が出来て、結局ふたりが相談の上で邪魔になる亭主を殺すことになったんです。安蔵が釣りに行くのを知って、勇二が先廻りをしていて不意に川へ突き落とす……。すべてが思う通りに運んで、お六は鳥屋の店を畳む、勇二は屋敷から暇を取る。そうして、品川へ引っ越して桂庵を始める。それで先ず小一年は無事に済んだのですが、旧い罪と新らしい罪とが一度にあらわれて、もう助からない事になりました。
 そこで例の鶏ですが、お六の申し立てによると、その一番《ひとつが》いは亭主の安蔵の死ぬ五、六日前に、千住の問屋から仕入れた鶏で、店を仕舞う時にこの一
前へ 次へ
全41ページ中38ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 綺堂 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング