で》でくたびれただろうが、これも御用で仕方がねえ。早く家《うち》へ帰って、かみさんを相手に寝酒の一杯も飲め」
 幾らかの小遣いを貰って、庄太はにこにこして帰った。
 それから三日の後、正月二十七日の午後である。品川の方を受け持ちの子分松吉が帰って来て、こんなことを半七に報告した。
「鈴ヶ森の仕置き場のそばで死骸が見付かりました」
「男か、女か」
「二十一二の若い男で、色白の小綺麗な、旗本屋敷の若侍とでも云いそうな風体《ふうてい》で、匕首《あいくち》か何かで突かれたらしい疵《きず》が四カ所……。首に手拭が巻き付けてあるのを見ると、初めに咽喉《のど》を絞めようとして、それを仕損じて今度は刃物でやったらしいのです。大小は誰か持って行ったらしく、本人は丸腰で、そこらにも落ちていませんでした。死骸は海へでも投げ込むつもりで、浪打ちぎわまで引き摺って行ったらしいが、人が来たのでそのままにして逃げたと見えます。懐中物はなんにも無いので、ちっとも手がかりになりそうな物はありません」
「その死骸はけさ見つけたのか」
「そうです。多分ゆうべのうちにやったのでしょうね。検視の済むのを見とどけて、わっしは急い
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