一件だが……。店を仕舞うときにみんな売ってしまいそうなものだが、何かの都合でひと番《つが》いだけ品川まで持って行くと、こいつが変に暴れたりする。二人はなんだか気が咎めて、薄っ気味が悪いような気もするので、ぶち殺すか売り飛ばすか二つに一つということになって、それが八蔵の手を渡って、大森の茶屋に売られて行った。どうでしょう。違いますか」
「誰の眼も違わねえ。まずそこらだろうな。いくら商売でも忌《いや》になるぜ」と、半七は溜め息をついた。「その通りであって見ろ、女も男も重罪で、引き廻しの上に磔刑《はりつけ》だ。それを知りながら科人《とがにん》の種は尽きねえ。どうも困ったものだ。といって、こうなったら打っちゃっても置かれねえ。松吉と手分けをして詮議にかかれ。おめえは浅草の方を受け持って、鳥亀の亭主はどんな人間だったか、女房はどんな事をしていたか、昔のことを洗ってみろ。鳥亀にも何か親類があるだろう。店の奉公人もあった筈だ。そんなのを詮議したら、大抵の見当は付くだろう。松には品川の方を受け持たせて、男の身許《みもと》を洗わせて見よう」
「ようござんす。浅草の方は引き受けました」
「毎日の遠出《とお
前へ
次へ
全41ページ中23ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 綺堂 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング